2008年04月12日
いのちを守るドングリの森
ご存じ、宮脇昭さんの著書の一冊である。80歳を超えられた著者が、情熱的なというよりまさに命がけで何故樹を植え続けられるのか、とても不思議だった。「世界で3000万本の樹を植えた男」というのが世評だが、人は何故にかくもモチベィーションを高く、深く持ち続けられるのだろうか。飽き性の小生には、とても気になる生き方である。
宮脇昭 「いのちを守るドングリの森」
集英社新書 693円
タイトルを見て先ず疑問に思ったのが、何故にドングリなのか、何故いのちを守るのか、という2点である。ドングリは、どんぐりころころ・・・・・・・・・と童謡にも歌われているように日本人になじみの深い樹木である。昔から生活と密着した樹だったのだろう。歌詞のように、堅い丸こいドングリの実をつけるのが大きな特徴だ。無論、ドングリという特定の樹木が存在するのではない。総称なのである。
やがて実をつけるであろうドングリの樹
筆者の口癖に 「シイ、タブ、カシ」という言葉がある。これらは常緑広葉樹の一種である。筆者によれば、この3樹が日本古来の森の樹であり、地域に植えるべき潜在自然植生の樹木だとの主張なのだ。そういえば、いわゆる「鎮守の森」にも何らかの形でこの3樹のどれかが含まれている。ドングリの樹でもある。これらの常緑広葉樹やクヌギ・コナラなどの落葉広葉樹は、「深根性・直根性」に優れ、多彩な防災・環境保全機能を持つ。何よりも管理費不要(造園会社不要)なのが一番ありがたい。昭和51年に発生した山形県酒田市の大火では、2000戸もの被災がでたが、地域の豪商本間家にあったタブノキで延焼が食い止められたと聞く。以来、同市は「タブノキ1本、消防車1台」とのスローガンで街作りを行っている。まさに「いのちを守るドングリの森」である。
最近では平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の事例がある。堅固と言われたコンクリート製のマンションや高速道路がいとも簡単に崩壊した。最新の科学・技術を駆使して造られた建造物が瓦礫と化したのだ。しかしながら「潜在自然植生」の主な構成種である、カシ・ヤブツバキ・モチノキなどは倒れず、後ろの家屋を守ったという。また神社やお寺では、建物は被災したが後背地の鎮守の森は災害に遭わず焼け残って無事だったとも聞く。
ドングリの苗木達 (里山倶楽部のメンバーによる)


「ふるさとの木によるふるさとの森は、そこに生まれ育ち働いている人たちの命を、未知の要因も含めてトータルとして守り、地域に根ざした文化を創造する心、生まれてくるこどもたちの遺伝子環境を守る、総合的な機能を持っている」という筆者の言葉で、著書の意図は明確であろう。宮脇さんが命がけで守ろうとしているもの、この美しい国土を何時までも保ち続けていきたいものである。及ばずながら、森作りに微力を尽くしたいと願っている。